きょうの診察室

Vol.69

食べられるものがない

10月、食欲の秋ですね。おいしいもの、わたしも大好きですが、
子どもたちのなかには、食べ物についていろんな悩みを持つ子どもがいます。
食物アレルギーや摂食障害。
また、感覚がとても繊細で、においや食感や色をすごく鋭く感じ取って、食べられるものが少ない子どももいます。

Aくんは、ひとりの世界にこもりがちでしたが、最近は集団で過ごすのにだいぶ慣れてきました。
感覚が敏感で、集団での給食だとにおいも味もすごく気になるので教室にいられなかったけど、最近はにおいは許せるようになってきました。

ある日の外来。
もうすぐ、学校でお泊りの会があるんです、とお母さん。
でも参加はできないかな、って。

よく聞くと、集団行動も、先生の対応もあってなんとかなりそうなのだけれど、
「ごはんがね、、、食べられるものがないんです」

合宿中の食事は、決まっていて、彼が食べやすいものを持っていくことが許可されなかったということです。
3日間もなにも食べないというのは、たしかに無理なこと。
アレルギーの子は持ち込みができるみたいなんだけど、せっかくにおいの壁をこえたのにね、とお母さんは肩を落とします。
かわりに、近所に一緒に出掛けることにしたようです。
Aくんは横でそれを聞きながら、椅子をぐるぐる回しています。
わたしから学校に相談することも持ちかけましたが、大丈夫、と笑いました。

子どもたちはそのままでも、成長の潜在力にあふれています。
でも、ちょっとした後押しがあると、うまくいくことや越えられることもたくさんあります。

それぞれにいろんな事情があるなかで、守るべきものはなにか。
安全と危険のはざまで、おとなにできることはなにか。

Aくんの背中を見送りながら考えた、診察室でした。

(小児科医 山口有紗)

山口先生のきょうの診察室への想いについてはこちら。
https://www.kidsrepublic.jp/pediatrics/today/detail/vol00.html



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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