■My message
診察室を訪れた子どもと家族が見せてくれた強さ、弱さ、アイデアやユーモア。彼らへの尊敬の念と、感謝と、その力をさらに引き出す小さなヒントがつまったコラム。読んだらちょっと、子どもとの毎日があったかくなることばを届けます。
【① 子どもの持つ力のすごさを届けたい】
私は子どもの力と可能性を信じています。それは日々、子どもの持つ力をたくさん見せてもらっているからです。
子ども自身が、病気を理解すること。病気の友達とのかかわり。家族を思いやること。まわりを観察すること。疑問を持つこと。自分の気持ちを表現すること。
ハッとするような気づきを与えてくれる彼らですが、もしかしたらその力は、毎日かかわっていると見えにくいものなのかもしれないし、病院という非日常で、ふだんの枠をとりのぞかれたからこそ、よりわかりやすく発揮されたものなのかもしれません。でも、それは確実に彼・彼女のなかにあるものです。さらに、子どもは信じて待ってもらったとき、ますます絶大な力を発揮します。
だからこそ、私が小児科医としてかかわるなかで教えてもらった子どもの力を、読者に発信し、「きょうの診察室」が、その力を信じて尊重する、きっかけになるように願っています。
【② 子どもを尊重し、力を引き出す方法を広めたい】
病気を持つ子どもや家族が病気になった子どもの権利を保障するための「Child Life」という考え方・かかわり方があります。あるいは、発達の凸凹がある子どもの良いところをいかに伸ばし、不適切な行動を減らしながら社会とのつながりを築いていく方法のひとつである「応用行動分析(ABA)」という方法があります。わたしが診察室で子どもと接しながら感じたことは、こうしたヒントは、病気や特性の有無にかかわらず、すべての子どもと家族にとって、よりよく力を引き出す助けになるということです。診察室でのやりとりのなかにこうした手法をちりばめることで、日々子どもと接するときの小さなヒントを発信していきたいと考えています。
【③ 子どもに向き合う家族を応援したい】
子どもが病気になった、離乳食を食べてくれない、保育園のほかの子と違いが気になる、ネットにこんなことが書いてあった、学校でうまくいかない…。診察室には、子育ての過程で次々にやってくる不安や思いがけないできごとに悩みながら、いろんな工夫をして、泣いたり笑ったり、がんばっているご家族がたくさんやってきます。病院を受診する子どもも、そのきょうだいも、お父さんお母さんも、みんなひとりの人間。病気を持つ子どもが中心になりがちではあるけれど、みんな本当にそれぞれががんばっているし、きついときには安心してSOSを出せるお手伝いができたら、と思っています。「きょうの診察室」を通して、十分にがんばっているご家族の姿を伝え、強くなくてもいい・がんばりすぎなくてもいいことを発信していきたいです。
【④ 診察室の中から、外へ】
保育士、学校や療育機関の先生、保健師、心理士、医師、など、子どもにかかわる専門家はたくさんいます。一方で、それぞれがなにをしていて、どんなことを考えているのか、ほかの専門家のことは、知らないことが多いなと感じることがあります。その間を行ったり来たりして、混乱したり、疲れたり、迷ったりするのは、本来はゆったり支えされるべきである子どもとそのご家族なのかもしれません。
子どもにかかわる専門家同士がお互いをよりよく知り、つながることが大切。診察室のとびらを開き、ひとりの小児科医として感じていることを、みなさんと共有できたらと思っています。(著者が主宰している「こども専門家アカデミー」もそれを実現するための方法のひとつです)
さらに、診察室の中にいるだけではわからないことが、たくさんあります。子どもと家族は病院のそとの生活の場所を持っていて、私たちが持っている医療という窓口は、その一部を支える、あくまできっかけのひとつだと考えています。診察室の外側にある、子どもと家族をとりまく社会を知らなくては、本当の意味で彼らを支えることにはなりません。
診察室のとびらを開くのは、その中身を知ってもらうばかりではなくて、社会のなかでの医療の役割を考える、チャンスにしたいと考えているからです。「きょうの診察室」が、その相互作用をつくる場所になればいいなと願っています。
(小児科医 山口有紗)
<感想募集>
「きょうの診察室」の感想や山口先生への一言メッセージをお待ちしています。こちらのリンクよりお寄せいただけると嬉しいです。
https://goo.gl/forms/VwpFji8HPIfAW5sI3
<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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