おなかがいたくて外来を受診して、その原因が便秘だった、ということはとても多いです。
浣腸をしてすっきり、こおどりで帰るうしろ姿。
いろいろな意味でほっとして見送ります。
ある日、永らく便秘で悩んでいるお子さんが、おなかを痛がり救急を受診されました。
産まれてからずっと便秘だというので背景にほかの病気がないかなと思って、詳しく話を聴いていました。
「それはいままでずいぶん、お子さんもお母さんもきっと何回も何回も大変な想いをしたでしょう」
お母さんが言います。
「便秘なんかで来て、ごめんなさい。便秘でもちゃんと話を聞いてくれると思わなかった」
便秘はあなどれないもので、奥が深いです。
背景の病気というだけではなくて、
排便をがまんしたり、おなかが痛い経験をしたり、
頻回の浣腸が恐怖の体験になったり、おもらししたり、
学校でいやな想いをしたり。
子どもの自尊心や、恐怖心や、不安などにかかわる大切な問題なのです。
と、お母さんに伝えると、
これまで、排便のたびに泣き叫ぶ子どもとつらい想いをしてきたことや、
つい、その切迫した状況に顔が険しくなるからか、子どもに
「おなかいたいとおかあさんがおこる」、
といわれてはっとしてショックでびっくりしたことを話してくれました。
だれもおなかの痛いわが子を怒りたいわけではないと思います。
でも、頻回のことで、せっぱつまって、そんなふうにしてしまうことも、あると思うのです。
だから、私たちにできるのは、
お母さんが怒らなくてもいいようにサポートすること。
もし怒ってもへこみすぎないように、そばにいること。
きっと便秘だけではありません。
怒ってしまう家族にこそ、たぶん、あったかいことばが必要なのだと、思っています。
(小児科医 山口有紗)
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<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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