学校にこわくていけない男の子。
「学校できもちが悪くなったらどうしよう」と思うとこわくてこわくて帰りたくなると話してくれます。
こわくなったときに、どうしたらいいかわかっているとすこし楽ちんかな?、と聞いてみると、
「あめみたいな、お薬があるよ」と教えてくれました。
でも、それ以上のことはふっとだまってしまいます。
あとからお母さんに聞くと、お父さんが男の子に、よくなる薬だよとあめ玉を持たせたそうです。
その子が弟に、「レモンのあめはあげるね」と渡そうとすると、
お父さんが「あめだと思うなら飲まなくていい!」と激怒したんです、とお母さん。
「あめ"みたい"な、お薬」
とわたしに伝えてくれたその子のやさしさと繊細さを感じました。
同時にその子の苦しさも、お父さんとお母さんのやさしさと苦しさも、痛いほど感じました。
「お父さん、でも、これはあめだよ」
「あのね先生、お父さんには言わなかったけど、お薬じゃなくてあめなんだよねー」
その子はそうは言いませんでした。言えなかったのかもしれません。
子どもが子どもらしくいたり、発言したりすることは、実はあんまり簡単なことではないのだと思います。
お父さんの願い、お母さんの思いやり、その子のやさしさ。
みんな一生懸命だからこそ。
がんばりすぎないで力を抜くことが、渦中にいる当人たちにはとても大変なことだからこそ。
少し外側から、支えることができたら、と思います。
いつか、
「お父さん、いっぱい考えてくれたけど、あれは、やっぱり、あめだったよね、ふふふ」
って、家族みんなで笑えるように。
(小児科医 山口有紗)
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<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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