きょうの診察室

Vol.09

ぼく、泣いたけど、動かなかったよ

こどもに処置をする際に、「プレパレーション」を行うと有用だとされています。
「こころの準備」といったところでしょうか。
こどもにもきちんと予告し、ながれを説明しておくということです。

採血や画像の検査などを行う際、何も説明をしなければ、こどもとしてみると宇宙人に拉致されて監禁され、わからないことばでがやがやするなかで変な道具がどんどんでてくる、という状況になるわけです。
とくに、こどもの認知は自分が中心なので、処置室にあるものは全部自分用だと思ってしまいます。

そのため、小さなこどもでも、これから行うことの流れ、すこし痛いこと、でもすぐ終わること、泣いてもいいこと、などをきちんと伝えることは大切です。

とくに、ちょっとであろうと痛いものは痛いので、泣く権利があるし、それでよいのだと保証すること。一般的には「●●クン、泣いてもいいけど、動かないようにがんばるのがお仕事だからね」という声掛けをよくします。

当院はスーパー看護師さんたちが採血をしてくれます。
ある日ベッドサイドに回診に行くと、男の子が「あのね!」とうれしそうに話しかけてくれました。

「きょうのちっくんはね、ぼく、泣いたけどね、動かなかったの!!」

たぶん看護師さんがちゃんと、プレパレーションをしてくださったのだと思います。
わたしもうれしく、全力で褒めてハイタッチです。

プレパレーションは医療者だけではなくて、ご家族もそれ以外の方にももちろん、できるヒントのひとつです。
こどもの自尊心をサポートする機会はたくさんあります。うまくみんなでそれを生かして、こどもを応援したいな、と思います。

(小児科医 山口有紗)



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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