きょうの診察室

Vol.08

おかあさん、いないよ

当院は付き添いのできる入院病床です。
こどものベッドサイドに行くと、付き添いのお母さんが買い物や食事にでていることがあります。

ひとりきりのこどもに「おはよう」と挨拶をして診察をしようとしたら、
「おかあさん、いまいないよ」
と言われてはっとしました。

いつもまずこどもに声をかけて、、と思っていても、こどもにとって、お母さんと医師が話をしていて自分は二の次、という印象をあたえていたのかもしれません。
「先生はいつも、〇〇くんに逢いに来ているんだよ。お母さんと〇〇くんが元気になるためのことをお話ししているんだ、伝わっていなかったらごめん」
するとその子はじーっと私を見て、
「せんせい、ここにすわってもいいよ」

そのあとも、回診の時に、
「せんせいについていく」と、近寄ってくるようになりました。

そうか。
「私があなたをみているよ、あなたに逢いにきているよ、あなたを気にかけているよ」、ということは、行動でもことばでも、こどもに伝わるように、こまめに発信していくことが大切だと、その子に教えてもらいました。
きっと病院以外でも、いっしょですね。

明日からの道しるべをまたひとつこどもにもらいました。
ありがとう。

(小児科医 山口有紗)



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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