きょうの診察室

Vol.03

ここも

エレベーターで、検査から帰ってきた男の子と乗り合わせました。
レンジャーもののパジャマを着て、点滴をしています。
点滴のお手てをとめるテープには、看護師さんが作ってくれたと思われる、アンパンマンを描いたテープが貼られています。

一緒に乗っていた他科の先生が、
彼の着ている服をみて「それかっこいいね」と声をかけました。
男の子はだまってうつむいています。

別の初老の女性が、
手のテープをみて「それかっこいいね」と声をかけました。
突然エレベーターじゅうに聞こえる大きな声で、
「ちっくんがんばったから!」
と叫ぶ男の子。

そのあと、そーっと、反対の手の肘をに目をやり、指さすのが見えました。
よくみると、注射のあとがそこにもあります。
そこにはしかし、テープはありません。

エレベーターが空いたので彼の横に膝をついて、
そこも、ちっくんをがんばったところかな?と反対の肘に触れました。
だまってうなずいて口角をしめ、男の子は先に降りて行きました。

こどもたちは、無言でがんばっていることもたくさんあります。
でも同時に、小さなヒントを私たちに送っています。
そのまなざしの先を見逃さないように、アンテナをいつもはっていたいな。

右のアンパンマンも、左のなんにもみえないところも、同じくらい、痛くてがんばったんだよね。
はやく良くなりますように。

(小児科医 山口有紗)



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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