妊娠すると皆さんが不安になるものの一つが、つわりです。周囲の先輩ママさんも辛そうだし、自分自身もどうやって対処したらいいのかわからない。辛いけど無理して食べたほうがいいの?赤ちゃんの成長に影響は?
産婦人科医の立場から、多くの妊婦さんを困らせる「つわり」について、是非知っておいてもらいたい内容をまとめました。
■つわりの症状は様々で、個人差も大きいです
つわりとは、妊娠によるホルモンバランスの変化によって生じる、悪心(吐き気)、嘔吐、食べ物の好みの変化などの総称です。ただし、人によっては頭痛や眠気、唾液の増加などもみられるなど症状は様々であり、個人差も大きいことが特徴です。
また、つわりは50-80%の妊婦さんが経験すると言われており、決して人ごとではありません。初めて出産する女性に比較的多いです。一方、出産経験がある女性には比較的おこりにくいですが、おきた場合には重症化しやすい、といわれています。
■つわりによる赤ちゃんへの悪影響はほとんどありません
つわり中は栄養が取れず、赤ちゃんが育たなかったり、流産率が上がってしまったりするんじゃないか、という不安の声を多く聞きます。しかし、医学的にはつわりの段階でそのような赤ちゃんへの影響が起きるとはほぼ考えられていません。なので、後に書かれているポイントを踏まえ、おおらかな気持ちで過ごすことがお母さん自身にとっても、赤ちゃんにとっても大切です。
ただし、つわりが重症化した妊娠悪阻の状態では話が変わってきますので注意が必要です。つわりと妊娠悪阻の違いについては後述の「もっと詳しく(2) つわりと妊娠悪阻(にんしんおそ)の違い」を読んでください。
■つわり中の過ごし方、対処法:3つのポイント
1)ストレスは最小限に
つわりには精神的・肉体的ストレスが関係していると考えられています。つわりの時期は辛いものですが、「8割くらいの妊婦さんが通る道なんだな」、「赤ちゃんは気にせず元気に大きくなってるんだ」、「これを機に生活の整理整頓をしてみよう」というように考え、まずは心身のストレスを溜め込まないような生活を心がけましょう。そして、パートナーにも正しく理解してもらい、家事などを協力してもらいましょう。
2)食事は食べられるものだけでOK。でも水分はしっかりと。
つわり中は、1日3食にこだわる必要はありません。1食分を無理に食べるのではなく、1日5食くらいを目安に、少ない量をこまめに食べるようにしましょう。そして、この時期は栄養バランスを無理に気にする必要もありません。、食べられるものだけを食べれば、基本的には大丈夫です。
ただし、食事が辛いときでも、水分は欠かさないようにしてください。特に、つわり中は電解質やミネラルが不足しやすいので、水だけでなく、スポーツドリンク等を飲むのがおすすめです。
3)どうしても辛い時は病院へ相談を
つわりは多くの妊婦さんに起こりますが、だからと言って我慢しすぎる必要はありません。重症のケースではお母さんにも赤ちゃんにも悪影響が出てくる場合もあります。体重が元の5%以上減った、水分さえ全然とれない、意識が朦朧としてしまう、などは重症のサインです。速やかに病院へ相談しましょう。
■もっと詳しく(1):つわりの期間
つわりは、早い方だと妊娠5~6週目ごろ(生理予定日1~2週間後あたり)から始まり、症状のピークは妊娠7~12週目ごろ、その後は次第に軽くなっていくことが多いです。大半の方は、妊娠16週頃までに症状はほとんどなくなってくると考えられています。
しかし、人によっては出産の直前まで継続することもあり、妊娠後期になれば必ずつわりがおさまるということでもないようです。
なお、それまでつわりがなかったのに妊娠9週目以降になって初めてつわりが発生した場合や、発熱・頭痛・しびれや麻痺など神経症状を伴うつわりがある場合は、単なるつわりではなく他の病気が隠れている可能性があります。重症のサインを見逃さないようにしてください。
■もっと詳しく(2):つわりと妊娠悪阻(にんしんおそ)の違い
つわりのなかでも症状が重く、重症化したつわりのことを妊娠悪阻と呼びます。例えば、毎日嘔吐があり体内の電解質が減少する、食事や水分がほとんど摂れず体重が元の数値から5%以上減少する、尿検査でケトン体が陽性反応を示す、などが診断基準です。妊娠悪阻は、妊婦さんのうち1-2%程度に起きると言われています。
■もっと詳しく(3):つわり中の薬剤使用
妊娠初期でも、ある程度なら安全に薬剤の利用も可能です。産科医の判断のもと、ビタミン剤や吐き気・嘔吐を改善するメトクロプラミドを服用して良いでしょう。また最近では小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう),半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう),人参湯(にんじんとう)などの漢方薬を使用することもあります。薬物ではありませんが、欧米ではジンジャー(しょうが)が有効とされ、産科医からの指導も含め広く用いられています。
つわりは多くの方にとって精神的にも身体的にも負担となりますが、赤ちゃんはたくましく育っている時期でもあります。適切な知識を持ち、パートナーとも協力しながら上手に対処していきましょう。
■参考文献
・JEFFREY D, et al. Nausea and Vomiting of Pregnancy. Am Fam Physician. 2003 Jul 1;68(1):121-128.
・ACOG FAQ. Morning Sickness: Nausea and Vomiting of Pregnancy.
産婦人科医 重見大介
<自己紹介>
「妊娠出産を誰もが明るく前向きに迎え、送れる社会」。
産婦人科の医療現場と、公衆衛生学の視点を通して、このような社会を実現する一助になることを、自身の目標としています。
キッズリパブリックから、皆さんのマタニティライフが少しでも安心で明るくなるよう、応援しています!
<略歴>
2010年 日本医科大学 卒業
2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)
2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室- NICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務
2017年4月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 進学
2018年3月 同大学院卒業
2018年4月~ 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学
<保有資格>
産婦人科専門医、公衆衛生学修士。
他に、NCPR(新生児蘇生法)インストラクター(Jコース)、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)。
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