プレママジャーナル

32週

怖い合併症:常位胎盤早期剥離

妊娠中に起こる可能性がある合併症は数多くありますが、その中でもお母さんと赤ちゃんの両方にとって非常に危険なものとして、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)という疾患があります。この疾患は、産まれた赤ちゃんの後遺症にも大きく影響します。発症してから病院へ到着し、対応するまでの時間が1分でも早いほど、母児へのリスクを減らすことができると考えられています。
症状などをきちんと知っておき、いざという時に対応できるよう、詳しく解説します。

■母体死亡や赤ちゃんの脳性麻痺の主原因と考えられている怖い合併症です

まず、常位胎盤早期剥離がどのような疾患なのか説明します。

通常の出産では、胎児が子宮の中から出てきた後に、胎盤が剥がれて出てきます。ところが、胎児が子宮から出てくる前に、胎盤が先に剥がれてしまうことがあり、これを常位胎盤早期剥離と呼びます。胎盤は、へその緒を介して、お母さんの体(子宮)と赤ちゃんを繋いでおり、栄養分や酸素をやりとりする大切な役目を持っています。まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が先に剥がれてしまうことは、生命の危険が非常に大きい状況と言えます。

発生頻度は全分娩の0.5〜1%程度で、そう多く発生するものではありません。しかし、常位胎盤早期剥離になった10〜15人に1人で母体死亡が、半数以上で周産期死亡(胎児または新生児期の赤ちゃんの死亡)が起きてしまうと報告されています。

■病院受診が遅れないようにすることが何よりも大切です

主な症状とその特徴は以下の通りです。

1.下腹部の急激な腹痛
2.頻回の軽い下腹部痛
3.持続的な下腹部痛
4.性器出血(多量のこともあるが、少量か全くないこともある)
5.動悸、めまい、気分不快などの貧血症状
6.胎動の減少や消失

なお、上記の全てが同時に起きるとは限りません。

常位胎盤早期剥離は突然起こり、急に状態が悪化するケースが多い疾患です。胎盤が剥がれてしまうことで、子宮内での出血が起きると、子宮がそれに反応して急激な収縮を起こします。ただし、出血が子宮の中で留まり、外まで出てこない場合もあるため、出血がないことが安心材料にはなりません。子宮内に出血がたくさん出てしまうと、お母さんは貧血の状態となり、ひどい場合にはショック状態(意識がもうろうとしたり、血圧が低下したりする危険な状態)となることもあります。
一般的に、胎盤が剥がれる部分の面積が大きいほど、重症となります。

これらの特徴を知っておけば、「いつもと何か違う、おかしいな」というときに、病院への連絡や受診が遅れてしまう可能性が減らせるかもしれません。

■発症リスクを上げる誘因は大きく8つあります

ただ、常位胎盤早期剥離に対する効果的な予防法はいまだに確立されておらず、予知する方法もわかっていません。しかし、これまでの研究から、発症を誘引するような原因はいくつかわかってきています。これらの発症誘因をきちんと理解し、日頃からおかしな症状が起きないか意識しておくことは、早期発見・早期対応に大切です。

1.前回までの妊娠で常位胎盤早期剥離を経験
2.妊娠高血圧症候群(もともと高血圧の場合も含む)
3.体外受精・胚移植での妊娠
4.腹部外傷(交通事故や転倒による打撲など)
5.喫煙(ニコチン)
6.早産、切迫早産
7.子宮筋腫
8.絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)

喫煙は自身でも減らせるリスクの一つです。
なお、常位胎盤早期剥離の30%〜50%程度は妊娠高血圧症候群を合併していたという研究報告もあります。高血圧の妊婦さんは、特にリスクが高いことを認識しておきましょう。

■もっと詳しく:治療はどうするの?

対応方法や治療は、「重症度と妊娠時期」によってケースバイケースに判断されますが、多くの場合には即座に出産(主に緊急帝王切開)が必要となります。
まだ未熟児の時期では、出産となることで赤ちゃんへの負担(未熟児としての健康リスク)が心配されますが、すぐに子宮から出してあげないと、胎盤が剥がれることによる子宮内死亡などのリスクが高まってしまうためです。
また、常位胎盤早期剥離で帝王切開を受けた妊婦さんは、出血が多くなりやすいなどの注意点があります。通常よりも入院期間が延びたり、点滴による治療や輸血が行われる可能性もありますので、主治医の先生に術後の状況をきちんと聞いておきましょう。

今回は、妊娠中に起こる合併症の中で最も怖い疾患の一つである常位胎盤早期剥離について解説しました。読んでいて不安な気持ちが強まってしまったかもしれませんね。でも、実際に起きる確率は全分娩の0.5~1%とそれほど高くはありません。また、ここで書いた内容を知っておけば、いざという時に症状を我慢せず病院に連絡することができ、1分でも早い対応がなされれば、救える赤ちゃんが増えると信じています。ぜひ、頭の隅っこに置いておいてくださいね。

産婦人科医 重見大介

<自己紹介>

「妊娠出産を誰もが明るく前向きに迎え、送れる社会」。
産婦人科の医療現場と、公衆衛生学の視点を通して、このような社会を実現する一助になることを、自身の目標としています。
キッズリパブリックから、皆さんのマタニティライフが少しでも安心で明るくなるよう、応援しています!

<略歴>

2010年 日本医科大学 卒業
2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)
2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室- NICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務
2017年4月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 進学
2018年3月 同大学院卒業
2018年4月〜 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学

<保有資格>

産婦人科専門医、公衆衛生学修士。
他に、NCPR(新生児蘇生法)インストラクター(Jコース)、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)。

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