産婦人科オンラインジャーナル

24週

早産と切迫早産の知っておいてほしい3つのこと

切迫早産という言葉を耳にされたことのある方は、少なくないのではないでしょうか。早産とは未熟児として出産になってしまうことを指し、切迫早産とは早産になるリスクの高い状態を意味します。
日本では早産率が世界トップクラスに低い水準ですが、それでも約20人に1人が早産となっています。
一方で、ネット上には様々な情報が溢れ、早産や切迫早産に関する適切な認識が広がっていないことも事実です。今回は、誰にでも起こりうる切迫早産、早産について、予防法や治療法も含め解説します。

■妊娠37週までに出産する早産は赤ちゃんに様々なリスクが

正期産と呼ばれる「適切な時期の出産」は、妊娠37週0日から妊娠41週6日までと決められています。

早産は、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を意味し、産まれたお子さんには未熟児としてのトラブルが起こる可能性があります。例えば、妊娠後期の早産(妊娠34~36週台)では呼吸障害、低体温症、低血糖症などが生じ得ます。また、より早い段階での早産(妊娠34週未満)ではこれらのリスクに加え、重症呼吸障害や脳出血、重症感染症などのリスクも発生します。

■切迫早産は「早期発見」が大切です

切迫早産は、早産になるリスクの高い状態を意味しますが、その程度は様々です。日本では欧米に比べ、軽症な方も「切迫早産」と診断される傾向があります。

切迫早産の代表的な症状は、以下のようなものです。

1.下腹部の張り感(子宮が硬くなる感覚)
2.下腹部痛(特に数分おきで周期的なもの)

このような症状を感じたら、まずは安静にし、症状がどう変化するかを確認しましょう。安静にすることで、軽い下腹部の張り感や痛みが消えてくるようなら、病院を受診せずそのまま様子をみていても多くの場合は問題ありません。

一方で、なるべく早く病院を受診した方がいいケースもあります。

1.安静にしていても歩くのが辛いほどの下腹部痛が消えない
2.赤い性器出血が少量であっても続いている
3.破水したように透明な水分が流れ出てきた

このような場合は、急いで受診しましょう。

■切迫早産への対処法について主治医としっかり相談しましょう

切迫早産の治療の目的は、妊娠期間をできるだけ延長させて、産まれる赤ちゃんへの危険性をできる限り減らすことです。
対処法は、切迫早産の重症度によって異なります。以下に重症度別の例を挙げますが、具体的な対処は主治医と相談するようにしましょう。

1.軽症の対処法
重い荷物を無理に持たない、長時間の移動を避ける、動いてお腹が張る等の自覚症状があれば安静にする、など日常生活での負担を最小限にする必要があります。ただし、通常の家事程度の負担が急に切迫早産を悪化させることはほとんどありません。また、通常は入院を指示される事もありません。

なお、張り止め(子宮収縮抑制薬)の内服薬(例:塩酸リトドリン)が処方されることがありますが、この薬の切迫早産予防効果は科学的に確立されていません。欧米では副作用の懸念もあるためそもそも国からの承認が下りていないものです。日本では、患者さんの症状によってケースバイケースで処方されることがありますが、自分にとって本当に必要かどうか、主治医とよく相談してみましょう。

2.中等症の対処法
長期の入院管理を勧められる場合があります。
入院では、安静による予防効果、症状悪化を早く見つけられる可能性や、点滴治療が行えるなどのメリットがあります。しかし長期入院にはデメリットもあり、長期入院によって筋力の衰えや深部静脈血栓症(足の血流が悪くなり血管内が詰まってしまう病気)のリスクが上昇します。また、慣れない入院生活や家族と離れることによる精神的ストレスが増すことも心配されます。
上の子がいるためどうしても入院できない、というケースでは、自宅での「厳しい安静」が指示される場合があります。「厳しい安静」と聞くと、一日中ベッドにいて、トイレ以外ほとんど動かない姿を想像されるかもしれませんが、これは誤ったイメージです。そのような安静の取り方は、身体にとって明らかに悪影響を及ぼしますし予防効果があるとは証明されていません。
よって、きちんと主治医と相談し、どのような生活が望ましいのか、具体的なイメージができるまでしっかりと聞いておきましょう。

3.重症の対処法
重症とは、数日以内にほぼ早産が避けられない状況を指す場合が多いです。通常は即日入院となり、必要と考えられる対処(子宮収縮抑制薬の点滴投与、ステロイド剤の注射など)を行います。ただ、その病院が未熟児に対応できない場合、新生児集中治療室を持つ周産期センターへ救急搬送となることもあります。

■もっと詳しく(1):早産のリスクが上がる要因

明らかになっている早産のリスク要因は

・これまでの出産で早産の経験がある
・前回の出産から半年以内の妊娠
・喫煙
・痩せ体型(BMIが18.5未満)
・長時間労働/重労働
・細菌性腟症(腟内に有害な細菌が増えてしまうもの)
・多胎妊娠(双子や三つ子)
・子宮頸部円錐切除術の経験

などがあります。これらの要因を妊娠判明時に一つでも減らしておくことは、ご自身でも工夫が可能な対策になるでしょう。
例えば、妊娠中のコンドームを使用しないセックスは、細菌感染のリスクがあり、また精液内の化学物質が子宮を刺激してしまいます。妊娠中にセックスする場合は、必ずコンドームを使用しましょう。
なお、特定の食事や飲み物などが切迫早産を悪化させることはないと考えられています。

■もっと詳しく(2):子宮収縮抑制薬の長期間投与

点滴治療として、子宮収縮抑制薬の「塩酸リトドリン」が使用される場合があります。実はこの薬は、欧米では基本的に2日間以内の投与しかしていません。なぜなら、それ以上投与しても、早産を遅らせる効果が証明されていないからです。最近では日本でも、何週間にも渡る長期間の投与を行わない方針としている病院が増えてきています。ただ、未熟児に対応できる大病院が近くにない地域などでは、どうしてもケースバイケースで長期の投与が行われることもあるのが実際のところです。
主治医にメリットとデメリットをきちんと確認した上で、みんなで納得のいく治療法を選択できるようにしましょう。

■もっと詳しく(3):お母さんへのステロイド剤注射

重症の切迫早産(妊娠34週未満での早産が予想されるなど)の場合に、お母さんへステロイド剤の注射が行われることがあります。これは、薬剤が胎盤を通じて未熟な胎児へ移行することで、産まれた後の呼吸障害を減らしたり、神経系の発達を改善させる効果があることがわかっています。

今回は、早産と切迫早産について詳しく説明しました。過剰な不安は不要ですが、自分自身でできること、パートナーや家族に協力してもらうべきこと、主治医にきちんと聞いておくべきことなどをしっかり把握しておくことは大切です。普段から切迫早産にならないような生活を心がけ、もし診断された場合には、主治医の先生と充分に相談していきましょうね。

■参考文献

・一般の方へ. 早産・切迫早産(日本産科婦人科学会ウェブサイト)
・ACOG FAQ. Extremely Preterm Birth.

産婦人科医 重見大介

<自己紹介>

「妊娠出産を誰もが明るく前向きに迎え、送れる社会」。
産婦人科の医療現場と、公衆衛生学の視点を通して、このような社会を実現する一助になることを、自身の目標としています。
キッズリパブリックから、皆さんのマタニティライフが少しでも安心で明るくなるよう、応援しています!

<略歴>

2010年 日本医科大学 卒業
2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)
2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室- NICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務
2017年4月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 進学
2018年3月 同大学院卒業
2018年4月~ 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学

<保有資格>

産婦人科専門医、公衆衛生学修士。
他に、NCPR(新生児蘇生法)インストラクター(Jコース)、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)。

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