産婦人科オンラインジャーナル

10週

妊娠中に接種できる/できない予防接種と他の予防法を覚えよう!

妊娠が判明すると、「感染症には注意しましょうね」とよく耳にします。でも、妊娠中に危険な感染症は?ワクチン(予防接種)で防げる感染症は?そもそも妊娠中にワクチン(予防接種)は打てるの?副作用はないの?など、色々な疑問が出てきます。ここでは、妊娠中のワクチン(予防接種)と、その他の感染予防法についてポイントを解説いたします。

■ワクチンには大きく2種類(生ワクチンと不活化ワクチン)があります

ワクチンには、その製造方法によって2種類あり、生ワクチンは妊娠中に接種できませんが、不活化ワクチンは接種が可能です。生ワクチンは予防対象の病原微生物(ウイルスなど)をそのまま使用するため、子宮内の赤ちゃんへ移行して悪影響を与える可能性があるのです。

接種できない代表的な生ワクチンには、BCG(結核)、麻疹風疹(混合も含む)、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、水痘(水ぼうそう)、黄熱、ロタウイルスが挙げられます。
接種できる代表的な不活性化ワクチンには、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンなどが挙げられます。

■予防接種ができない感染症には特に注意して予防を

上記の生ワクチンは妊娠中に接種できません。もし妊娠が分かった後にそれらのウイルスへの抗体(免疫力)がないと分かった場合には感染予防の工夫をすることが大切です。
次にあげるウイルスなどには特に注意しましょう。

<結核>
長期間に及ぶ空咳が特徴の疾患で、空気感染で移ります。人混みに入る時はマスクをする、咳混んでいる人と近距離で接しない、などでリスクを減らすことができます。

<麻疹/風疹>
麻疹は妊娠中にかかると流産や早産を起こす可能性があります。風疹は妊娠初期(20週以前)にかかると、胎児感染を起こし、赤ちゃんが難聴・白内障・先天性心疾患を特徴とする先天性風疹症候群を持って産まれてくる可能性が高まります。流行時には外出を避け、人混みに近づかないようにしましょう。また、同居者に麻疹/風疹にかかる可能性の高い方(例えばワクチンの2回接種を完了しておらず、医療従事者や教育関係者などウイルスに曝される可能性が高い方など)がいる場合は、その方のワクチン接種等の対応について医師にご相談ください。

<流行性耳下腺炎(おたふく風邪)>
原因となるムンプスウイルスは唾液を介して飛沫感染します。潜伏期間は2~3週間と長く、ウイルスは症状が現われる前から唾液中に排泄されます。このため、集団発生時の対策が難しく、流行を効果的に予防するには妊娠前のワクチン接種が唯一の方法とされています。ワクチン未接種の場合には、外出する際にマスクをつけるなど、一般的な感染予防を徹底しましょう。

<水痘(水ぼうそう)>
過去に水痘にかかったことのある方は、水痘に対する免疫を獲得しており、再感染は通常起こらないと考えられています。もし過去に感染した経験がない場合、水疱(水ぶくれのような発疹)がある方への接触を控えるようにしましょう。

<ロタウイルス>
ロタウイルスは、乳幼児の急性重症胃腸炎の主な原因ウイルスとして知られています。予防には、オムツの適切な処理、手洗いの徹底などが必要です。オムツを交換するときには使い捨てのゴム手袋などを使い、捨てる場合はポリ袋などに入れます。手洗いは指輪や時計をはずし、せっけんで30秒以上もみ洗いします。衣類が便や吐物で汚れたときは、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)でつけおき消毒した後、他の衣類と分けて洗濯しましょう。ロタウイルスにはアルコールなどの消毒薬ではあまり効き目がありません。

■インフルエンザ予防ワクチンもぜひ打ちましょう

インフルエンザ感染が直接、お腹の赤ちゃんに悪影響を与えることはないと考えられています。
しかし、妊娠中は、普段より免疫力が低下している状態であるため、インフルエンザにかかってしまうと重症化しやすくなると言われています。そして、重症化して、お母さんが高熱や肺炎を合併してしまうと母児ともに注意が必要な状態になってしまいます。ですので、インフルエンザのワクチン接種は重要です。
インフルエンザワクチンは妊娠中にも高い安全性のもとで使用できることから、海外の多くの国でも、もちろん日本でも、妊婦さんへのワクチン接種が推奨されています。接種は妊娠全期間で可能ですので、流行シーズンが始まる10~11月が理想的な接種時期となります。なお、インフルエンザワクチンには防腐剤としてエチル水銀(チメロサール)を含んでいるものもありますが、妊娠中にこれを接種しても赤ちゃんへの影響はないとされています。病院のワクチンに余裕があれば防腐剤を含んでいないものを投与してもらえるかもしれませんが、もし在庫が少なく防腐剤入りのワクチンしかない場合でも、特に問題はありません。
また、お母さんが獲得した免疫力は胎盤を通じてお腹の赤ちゃんにも移行し、生後の感染予防に有効だという複数の研究結果があります。インフルエンザワクチンも同様で、生後半年以内のお子様のインフルエンザ感染を減らしてくれると期待できます。赤ちゃんのためにも、妊娠中の積極的な接種をお勧めします。

妊娠中の感染症は、お腹の赤ちゃんへの影響まで考えてしっかり予防することが重要です。そのためには、妊娠中に打てないワクチンがあることも知っておかなければなりません。逆に、インフルエンザなど安全に打てるとわかっているワクチンであれば、きちんと利用することが大切です。パートナーとも一緒にこれらを理解して、早めの予防対策を計画していきましょうね。

■参考文献

・ACOG FAQ. The Flu Vaccine and Pregnancy.

産婦人科医 重見大介

<自己紹介>

「妊娠出産を誰もが明るく前向きに迎え、送れる社会」。
産婦人科の医療現場と、公衆衛生学の視点を通して、このような社会を実現する一助になることを、自身の目標としています。
キッズリパブリックから、皆さんのマタニティライフが少しでも安心で明るくなるよう、応援しています!

<略歴>

2010年 日本医科大学 卒業
2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)
2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室- NICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務
2017年4月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 進学
2018年3月 同大学院卒業
2018年4月~ 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学

<保有資格>

産婦人科専門医、公衆衛生学修士。
他に、NCPR(新生児蘇生法)インストラクター(Jコース)、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)。

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