産婦人科オンラインジャーナル

5週

産婦人科医が伝えたい「切迫流産」の正しい知識と対応

「切迫流産になって入院した」という先輩ママの話を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。「流産」と聞くと、ドキっとしてしまいますが、「切迫流産」は正しい知識を持っておくことで、過度に不安となることなく対処できます。
産婦人科医の立場から、妊娠中の方には是非知っておいてもらいたい内容をまとめました。

■切迫流産は「流産のリスクが通常より高い状態」という意味

「流産」とついていますが、「切迫流産」は「流産のリスクが通常より高い状態」という意味で、まだ妊娠が継続している状態です。

切迫流産の主な症状は性器出血で、出血量が多く腹痛を伴うほど、流産に進行する可能性が高いと考えられています。一般的に少量の茶色~黒っぽい出血だけで腹痛がなければ、完全に流産となる危険性は低めと考えられますが、赤く、普段の生理の量くらいの出血が継続したり、強い腹痛を伴う場合には、流産となる危険性が高めと考えられます。

ただし、切迫流産全体では、90-95%程度が正常の妊娠に戻ると言われています。

■切迫流産と診断された場合は「無理な運動や身体の負担を避ける」以外に効果的と言える方法はありません

現在までで世界的にわかってきている主な見解は以下の3つです。

1)唯一できることは安静を意識すること。過剰な運動(テニスなど運動量が激しいスポーツや、重量物の運搬など)は避けるべきだと考えられるが、日常生活や通常の家事程度の動きではまず悪影響はないだろう。
2)薬剤で確実に有効と判明しているものはまだない(切迫流産の改善率を上げたり、流産の発症率を下げると証明されたものはない)。
3)初期の出血に対応する治療法が確立していないので、流産となるかはある程度確率の問題となってしまう。

つまり、「無理な運動や身体の負担を避ける」以外に、こうすれば流産となる確率を下げられると証明されているものは現在のところ、ないということになります。これらの内容は、日本の産科診療で広く用いられている「産婦人科診療ガイドライン」にも記載されています。

このため、軽度の腹痛や少量の出血で毎回病院を受診される必要はあまりない(受診によって流産率が改善することには繋がりにくい)と考えられます。

■具体的な対応は担当医に相談・確認を

具体的にどこまで「安静」にすることが必要かつ適切なのかなど、個人個人に合わせた詳細な対応に関しては、各担当医にきちんと確認することが大切です。

過度に心配をする必要はありませんが、医師に相談をしながら、正常の妊娠状態に戻るまで適切な対処をしていきましょう。

■もっと詳しく(1):流産の基礎知識

原因を問わず、妊娠が22週未満で終了してしまうことを流産といいます。
 流産は妊娠全体のうち約10~15%に起きます。また、女性の年齢とともに流産率は上昇していき、40歳以上では25%にも達すると言われています。このため、流産は決して珍しいことではないのです。

■もっと詳しく(2):切迫流産以外の流産

出血がなければ流産しない、という訳でもありません。稽留流産(けいりゅうりゅうざん)というものがあり、これは赤ちゃんが子宮内部で死んでしまった状態ですが、まだ胎嚢が体外へ出てこない状態のことを指します。つまり、出血や腹痛といった自覚症状がほとんどありません。そのため、ほとんどのケースでは、妊婦健診で胎児の動きや心拍を確認できず、そこではじめて発覚します。

■もっと詳しく(3):流産の原因

初期流産では、そのほとんどが赤ちゃん側に原因があると考えられています。つまり、染色体や遺伝子の病気など、赤ちゃん側にもともと出産まで成長できる生命力が備わっておらず、早いうちに流産となってしまうのです。このため、妊娠初期の段階では、お母さんのちょっとした運動や仕事などが流産の原因になることはほとんどないといえるでしょう。また、第二子の妊娠中の方の場合、「第一子に授乳をするのがいけないのではないか」と不安に思う方が時々いらっしゃいますが、授乳は流産率に影響しないという意見が産婦人科医の中では多くみられています。

切迫流産には、精神的なストレスも悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。適切な知識を持つことで、過度に不安を抱えることなく、上手に対処していきましょう。

■参考文献

・一般の方へ. 流産・切迫流産(日本産科婦人科学会ウェブサイト)
・出産に際して知っておきたいこと. 妊娠初期の出血について. (国立成育医療研究センターウェブサイト)
・ACOG FAQ. Early Pregnancy Loss.
・女性の加齢は流産にどんな影響を与えるのですか?(日本生殖医学会ウェブサイト)

産婦人科医 重見大介

<自己紹介>

「妊娠出産を誰もが明るく前向きに迎え、送れる社会」。
産婦人科の医療現場と、公衆衛生学の視点を通して、このような社会を実現する一助になることを、自身の目標としています。
キッズリパブリックから、皆さんのマタニティライフが少しでも安心で明るくなるよう、応援しています!

<略歴>

2010年 日本医科大学 卒業
2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)
2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室- NICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務
2017年4月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 進学
2018年3月 同大学院卒業
2018年4月~ 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学

<保有資格>

産婦人科専門医、公衆衛生学修士。
他に、NCPR(新生児蘇生法)インストラクター(Jコース)、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)。

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